桃太郎は思っていた。
部長は、いつも辛く淋しい旅ばかり桃太郎に強いるので、今回は息抜きなんだと。
今回は、温泉だ!楽しいなと。部長の「午後からの企画発表だ!」の言葉にも部長の悪意を想像する事など出来る訳が無かった。
油断していた。
桃太郎「陸羽東線完全制覇?部長何を言ってるんですか?」
旅人K「おー、楽しそうだね。陸羽東線かぁ、早く行こうよ。」
部長「さ、時間無いからね。」
桃太郎「ゆっくり温泉旅は?はっ!だ、騙されたのか?散々安心させて奈落の底に突き落とす作戦か!」
部長「作戦?最初から決まってたルートだから。俺が下見してきたんだから!」
桃太郎「下見?聞いてませんが。」
部長「言ってなかったっけ?」
完全に部長の策にハマッた。最初からこれが狙いか。
また、騙された・・・。しかし、朝からの楽しい旅の余韻から覚めていない桃太郎にとって理解するのに時間が掛かっていた。
それと、まあ部長も一緒なんだから、これから辛くても一人じゃないんだという考え方にも行き着いていた。
前回の陸羽東線の旅はそれほど辛く桃太郎の記憶に残っている。
桃太郎「まあ、部長も一緒なら良いですけどね。」
部長「良し!じゃあ時間無いから行くぞ!」
こうして半分は納得していないものの、相変わらず流されやすい桃太郎の性格もあり、陸羽東線完全制覇は無事スタートする事になった。
ここで、全く路線に詳しくないと言う人の為に、改めて陸羽東線の紹介をしておきます。
陸羽東線とは1915年に開通した、宮城県の小牛田駅から山形県の新庄駅までの約94キロの路線です。
駅の数は27駅。
仙石線があおば通駅から石巻駅まで50キロで32駅も有る事を考えれば、陸羽東線は駅間が長い事が分かる。
尚、この陸羽東線には、「奥の細道湯けむりライン」という愛称も有る。
もちろん名所の鳴子温泉を含めて温泉が多い路線から名付けられた事は言うまでも無い。
桃太郎が前回旅した鳴子温泉までは15駅。完全制覇とは、あと12駅を制覇する事になる(?)。
桃太郎「部長!完全制覇するっていう事は、各駅停車するんですか?つまりは、下手をすると今日一日では終わらないかもしれないという事ですか?」
部長「んっ?あー、うーん、なるほどね。そこまでは考えてなかった。」
桃太郎「えっ?だって完全制覇するんですよね?それって桃太郎がやったように各駅に停車して、その駅の周りを観察報告するって事じゃないですか?」
部長「まあ、そこまではいいんじゃない。今後は青春18切符使って旅をする事になるだろうから、今回はそれが本当に可能かの実験旅でも有るから。そんな過酷な事続けられないじゃん。」
桃太郎「いやぁ・・・。か、過酷な旅してきたんですが・・・。」
つづく